2012年5月2日水曜日

「英国王ヘンリー8世作曲"Pastime With Good Company(良き仲間との気晴らし)"」 - チャイコフスキー庵 Tchaikovskian для Любителей Музыки Чайковского


反政府デモのために、エジプトから
帰ろうかなカイロかな、と思っても出国できない
日本人観光客が500人ほどいるらしい。しばらくは、
足止めらしい。ときに、
歌舞伎に「暫」という市川宗家のお家芸がある。
いわゆる「十八番、おはこ」である。これは
7代め団十郎の得意とする出し物の
名簿、つまりはnomenclatura(ノーメンクラトゥーラ)ともいえる。が、
「あいや、ムバラク!」と、
今回のエジプトの日本人観光客にモーセは現れない。ちなみに、
米国CBSがTVドラマ
"Moses the Lawgiver(立法者モーゼ)"を作ったとき(1974年)、
モーセ役はバート・ランカスターだった。ともあれ、
「あいや、暫く」のような、
いわゆる江戸時代の「武士言葉」「侍言葉」というものは、
公的な場で使う言葉である。そうした、
いわゆる武士の標準語ともいうべき言葉を習得するために、
武家では「能」を嗜んだのである。

世阿弥が死んだとされるのが嘉吉3年。それから10年後、
オスマン帝国の大軍にコンスタンティノポリスを落とされて
東ローマ帝国は滅亡した。その1453年、西欧では
ボルドーがフランスに奪還され返して、もはや
遅カレ早カレ終結になる百年戦争において、英国では
敗戦責任追求の矛先は当然に王室へ向けられた。
一揆が起こり、王位継承の内戦、英国版応仁の乱である
[赤薔薇=ランカスター家vs白薔薇=ヨーク家]
薔薇戦争に突入する。そして、
ランカスター派の血を引く唯一の男子となった
ヘンリー・テューダー(リッチモンド伯爵、1457-1509)は、
ヨーク派に命を狙わる的にされた。が1585年、
リッチモンド伯はボズワースの戦いでヨーク派を打ち破り、戴冠して
ヘンリー7世となった。この戦闘でヨーク派国王
リチャード3世(1452-1485)の軍は当初は有利だった。が、
ヨーク派スタンリー兄弟の関ヶ原における毛利兄弟的日和見戦闘不参加で、
形勢はランカスターに傾いた。敗戦濃厚な中で、
リチャード3世はシェイクスピアの芝居で"脚色"されてるように、
自暴の討ち死にをする。この戦功でスタンリー兄は
ダービー伯爵に叙せられた。競馬のオウクス、ダービーの創設者
第12代ダービー伯爵の先祖である。


モナリザは彼女の歌詞に嫉妬しなければなりません

ともあれ、
ヘンリー8世はそのヘンリー7世の次男である。兄が死んだために
王太子となった。そして、兄嫁である
キャサリン・オヴ・アラゴンと結婚する。そして、
その離婚問題でローマ教会と決裂し、
英国国教会は生まれるのである。が、
ヘンリー8世自身は教義的にはカトリックだった。
娘のメアリは母親と同じくバリバリのカトリック。反対に、
エリザベスはその母親と同じくプロテスタントだった。ちなみに、
ヘンリー8世は父の代からの財務担当官にして下院議長の
エドマンド・ダドリー(1462頃-1510)を横領の罪をきせて処刑し、
右腕だった枢機卿兼大法官トマス・ウルズィー(1475-1530)を
ロンドン塔送りにし(結局、功労で処刑はしなかった)、
次の大法官サー・トマス・モア(1478-1535)も、
「自分のユートピアというよりも言ウトオリヤないでしかし」
とケンブリッジ大総長ジョン・フィッシャーとともに斬首し、
そのあと右腕となった
トマス・クロムウェル(→エスィクス伯爵、1485-1540)も首を切り、
妃となったアン・ブーリン、同じく妃となった
その従姉妹キャサリン・ハウアドも断首した。
戦功のあったサリー伯爵も同様の運命を辿った。

このようにして、ヘンリー8世は首切り王である。そして、
馬上槍突き試合を好んだが、いっぽうで教養人でもあった。
ハンス・ホルバイン(倅、1497もしくは98年-1543)を宮廷画家にし、
トマス・タリス(1505頃-1585)を王室礼拝堂オルガン奏者にした。
自らも作曲の素養があった。もっとも秀でた作品は、
"Pastime with Good Company(パスタイム・ウィズ・グッド・カンパニ)"
というバラードである。
小林幸子女史と京唄子女史の顔が判別できない拙脳なる私は、
国債の格付けどうように初期近代英語にも疎いので、
現代英語のスペルでその歌詞を記す。


TEそれは考えされているものである場合

[Pastime with good company
I love and shall unto I die;
Grudge who list, but none deny,
So God be pleased thus live will I.]
(パスタイム・ウィズ・グッド・カンパニ
アイ・ラヴ・アンド・シャル・アントゥ・アイ・ダイ
グラッヂ・フー・リスト、バット・ナン・ディナイ、不平
ソウ・ゴッド・ビー・プリーズド・ザス・リヴ・ウィル・アイ)
「(拙大意)良き仲間との気晴らし
それを私は楽しんでるし、死ぬまで楽しむと思う
陰口を好む者はいるかもしれない、が、誰も間違ってるとは断じれない
だから、神も私がこのように生きることをお喜びになるはずである」

[For my pastance
Hunt, song, and dance.
My heart is set:
All goodly sport
For my comfort,
Who shall me let?]
(フォー・マイ・パスタンス
ハント、ソング、アンド・ダンス
マイ・ハート・イズ・セット
オール・グッドリー・スポート
フォー・マイ・コンフォート
フー・シャル・ミー・レット?)
「(拙大意)私の気晴らしといえば、
狩、歌、そして踊り。
私がよりどころにしたこれらは
みんな立派な娯楽だ
私がしたいことを、
誰が邪魔できるというのだ?」

[Youth must have some dalliance,
Of good or ille some pastance;
Company methinks then best
All thoughts and fancies to dejest:]
(ユース・マスト・ハヴ・サム・ダリアンス、
オヴ・グッド・オア・イル・サム・パスタンス、
カンパニ・メシンクス・デン・ベスト・
オール・ソーツ・アンド・ファンスィーズ・トゥ・ディジェスト)
「(拙大意)若者は時間を浪費するべきだ
良きにつけ悪しきにつけ気晴らしとして
仲間がその点最良だと私には思われる
思考や空想をすべてきちんとしたものにするためには」

[For idleness
Is chief mistress
Of vices all.
Then who can say
But mirth and play
Is best of all?]
(フォー・アイドルニス
イズ・チーフ・ミストリス
オヴ・ヴァイスィス・オール。
デン・フー・カン・セイ
バット・マース・アンド・プレイ
イズ・ベスト・オヴ・オール?)
「(拙大意)なぜなら、無為にすごすことは、
一番の女教師である、
あらゆる悪習のうちで。
だから、誰が言えよう、
はしゃいで遊ぶこと以外が、
すべてのなかで最良だと」


私はいつもあなたホイットニーヒューストン愛します

[Company with honesty
Is virtue vices to flee:
Company is good and ill
But every man hath his free will.]
(カンパニ・ウィズ・オニスティ
イズ・ヴァーテュー・ヴァイスィス・トゥ・フリー
カンパニ・イズ・グッド・アンド・イル
バット・エヴリ・マン・ハス・ヒズ・フリー・ウィル)
「(拙大意)誠実な仲間は、
悪習が消え失せるほどの価値がある
仲間には善い面も悪い面もある
が、みんなそれぞれに率直な気持ちをぶつけてくれる」

[The best ensue,
The worst eschew,
My mind shall be:
Virtue to use,
Vice to refuse,
Shall I use me.]
(ダ・ベスト・インシュー、
ダ・ワースト・エスチュー、
マイ・マインド・シャル・ビー
ヴァーテュー・トゥ・イューズ、
ヴァイス・トゥ・リヒューズ、
シャル・アイ・イューズ・ミー)
「(拙大意)善きことなら採り入れ、
悪しきことなら避け、
と私の考えは決まってる。
価値あるものなら用い、
欠陥あるものならはねつける、
というふうに私は自分を働かせるつもりだ」

この歌は父を継いだ直後に作られたものらしい。
これが「帝王学」というものの本質なのだろう。
重用した臣下でも、本来は同等の血筋の貴族でも、
用済みになって自分や英国に不都合となったら
容赦なく斬首、そして、首晒しである。ともあれ、
このバラードはヘンリー自身も歌ったにちがいないが、さぞ
ヘンリー・発声はよかったことだろう。さて、節である。
(音源から私がカタカナ譜に採譜したものなので、
細部に正確でない箇所があることを了承いただきたい)


[2/2拍子、1♭(現代ふうにはト短調)]
**♪ドーーー・ーードー│ドーーー・ーードー│
>シーー<ド・>シー>ラー│>ソーーー・ーー、ソー│
<ドーーー・ーードー│>シーーー・ーー>ラー│
>ソー<ラー・>♯ソ>♯ファ<♯ソー│
<ラーーー・ーーーー│
<ドーーー・ーードー│ドーーー・ーードー│
>シーー<ド・>シー>ラー│>ソーーー・ーー、ソー│
<ドーーー・ーードー│>シーーー・ーー>ラー│
>ソー<ラー・>♯ソ>♯ファ<♯ソー│
<ラーーー・ーーーー│
●●●●・<●●ラー│ラーーー・<シーーー│
<ドーーー・ーー、>ソー│<【ラーーー・<シーーー│
<ドーーー・ーー、ドー│<レーー>ド・>シー>ラー│
>ソーーー・ーー】、ドー│>ラーーー・<シーーー│
<ドーーー・ーー、ドー│>ラーーー・<シーーー│
<ドーーー・ーー、ドー│>シー>ラー・>♯ソ<ラ<シ>♯ソ│
<ラーーー・ーーーー♪
(原曲は4声のようである)

上記の【】の部分の動機を、後年、
チャイコフスキーはその「交響曲第5番」の第1楽章第1主題として使ってる。
[アッレーグロ・コン・アーニマ(付点4分音符=104)、6/8拍子、1♯(ホ短調)]
****♪ファー│
<【ラーッ、●ララー・ーー<シーッ、<ドーッ、│<レー>ドー、>シー・>ラーーー】♪
ともあれ、
ヘンリー8世が昭和40年代乃至50年代の日本で
フォーク・ソング・スィンガーだったら、さぞかしヒットしたことだろう。
「赤い鳥」のメンバーのうちの夫婦者がデュオで再結成した
「紙ふうせん」が昭和52年(1977年)11月に売り出した
【冬が来る前に】(歌詞=後藤悦治郎、曲=浦野直)
という歌謡曲がサビの箇所でほぼパクってるのである
(出だしはラフマニノフのpf協奏曲第2番第3楽章の
有名な主題を参照されたい:
♪ミー│ー、>ド・<ミ<ファ│<ソ>ファ・>ミー│ー♪)。
【冬が来る前に、もう一度】
♪【ラ(ふ)ーーー・<シ(ゆ)ーーー│<ド(が)ーーー・ーーーー│
<レ(く)ーレ(る)ー・>ド(ま)>シ(え)ーー│
>ラ(に)ーーー・ーー、>ソ(も)ー】│<ド(う)ーーー・<レ(い)ーーレ(ち)♪


ちなみに、
このサビの歌詞もオフコース(歌詞&曲=小田和正)の
「冬が来るまえに」(昭和51年11月発売)
【この冬が来るまえにもう一度、あなたに会いたい】
にイキウツシである。
♪ド(こ)ーーー│<ミ(の)ーーー・<フ(ふ)ーーー│
<ソ(ゆ)ーーー・ーーーー│>ド(が)ーーー・ーーーー│
<ラ(く)ー>ソ(る)>ファ(ま)・ーー<ラ(え)ー│
>ソ(に)ー、>ファ(もう)ー・>ミ(い)<ファ(ちぃ)ー<ソ(ど)│
ーーーー・ーーーー♪

この当時は横浜出身の小田和正は当然ながら、
広島もしくは兵庫という非鼻濁音地域出身の平山泰代女史であっても、
語中のガ行、とくに格助詞「が」を鼻濁音で発声してたのである。が、
ヘンリー8世は梅毒死したという説もあるので、もし鼻がもげてたとしたら、
鼻濁音は無理だったかもしれない。いずれにせよ、
王位についてからの"気晴らし"は、
臣下を斬首刑にすることだったようである。



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