2012年5月3日木曜日

ビートルズ Beatles 音楽の殿堂


ビートルズはすばらしいに決まっています。問題はどれを「最高傑作」とするか。

それぞれのアルバムへの評価は、時代とともに変化してきました。

あらたまって「歴史的真価」を問うと、そのアルバムが持つ「時代性」「革新性」が重視されるように思います。

その意味では、 今投票すると「リボルバー」、「サージャント・ペパーズ」、「ラバー・ソウル」あたりになるのでしょうか。要するに歴史を変えたかどうかです。これらのアルバムがポピュラー・ミュージックの世界にもたらした衝撃は、否定しようのない事実。その革新性に誰もが驚きました。

しかし「音楽の殿堂」は、その作品自体が持つ音楽性そのものを重視しています。

その点からは、やはり「アビイ・ロード」です。

アビイ・ロードへの評価も、時代とともに変遷しました。69年の発表時、「これぞサージャント・ペパーズと並ぶビートルズ最高傑作」ということで人気爆発。なんと、ビルボード首位11週間、1,200万枚を売り上げます(ホワイト・アルバム<1,900万枚>に次� �)。

しかしその後、評価は下降トレンドへ。

たとえば、欧米の主要音楽誌の「歴史的アルバムランキング」では、こんな感じです。


私は何の最後の場合
アルバム名/
書名(発表年)
Rolling
Stone
(2004)
Q
(2003)
VH1
(2000)
Mojo
(1995)
ギネス
(1994)
 リボルバー 3位 3位 1位 3位 5位
 サージャント・ペパーズ 1 15 10 51 1
 ラバー・ソウル 5 圏外 6 27 10
 ホワイト・アルバム 10 45 11 19 15
 アビイ・ロード 14 圏外 8 24 58


なんでこうなんでしょう?

ところで、日本の事情については、大瀧詠一氏の大変興味深い分析があります:

「日本のミュージシャンにビートルズのフェイヴァリット・アルバムを聞くと『アビイ・ロード』が必ずと言っていいくらい上位にランクされますが、このアルバム発表時期と(「イエスタデイ」が音楽の)教科書に採用された時期がクロスします(外国に比べて『ラバー・ソウル』までを挙げる人が異常に少ないのも日本の特徴です)。一旦教科書に取り上げられたとなると、今度は<権威化>から<神格化>にエスカレートし、チョッピリとした揶揄さえ信者には許しがたいものになる、という構図も作られていったのです。」 <レコード・コレクターズ 1995年7月号>


スティービー·ニックスは何歳ですか?

さて「アビイ・ロード」製作の背景について、今さらふれる必要はないと思いますが、要するに、解散の決まったビートルズの「(本当の)ラスト・アルバム」ということです。

中心はポール・マッカートニーレット・イット・ビーで遠ざかったジョージ・マーティンを呼び戻したのはポール。あの「メドレー」もポールで、要するにアビイ・ロードは「ものすごくポール」なわけです。

この点、「ビートルズの精神性はジョン・レノン」的な立場からすると、「アビイ・ロード」はポールの「俗物性」が支配する世界であり、80年代の「産業ロック」のはしりと見るような向きもあります。 確かに「まとまりが良すぎる」、「職人的過ぎる」といったこともあるでしょう。

しかし、ビートルズのラストが駄作であっていいはずありません。ジョン、ポール、ジョージ、リンゴは作品を持ち寄り、確執をしばし忘れ最後の力を振りしぼります。

わたくしは、この4人の若者のあっぱれなプロ根性を評価せずにはいられないのです。

それでは、楽曲ごとに:

カム・トゥゲザー
1曲目がジョンというのも興味深い。ポールが気を使ったのか。シングル・カットもこれ(サムシングと両A面。全米1位)。こいつは強烈でした。初めてラジオで聴いたとき、イントロで何がおこっているのか分かりませんでした。「シュート・ミー (Shoot Me)」のジョンの声、リンゴのタム、ポールのベースが渾然一体となって、不気味・怪しげなムード全開です。あくまでヘビーにクールに。基本は単純なロックン・ロールなのに、どうしてここまでかっこ良くなるの!

サムシング
ジョージ・ハリソンはこれで報われました。徹底的に創り込まれた3分間。究極の「起承転結」。感動の「転調サビ」が一回だけなのは、絶対に正しいのです!ジョージの泣きギターに加え、特筆モノはポールのベース。「うるさい」一歩手前で「歌うように」寄りそいます。成熟したリンゴのドラミング。気品あるストリングス。厳粛なオルガン。すばらしい・・・・。

マックスウェルズ・シルバー・ハンマー
ジョンはこれがイヤだったんだな。ポールの露 骨なノスタルジーというか「おじさん」っぽさ。サージャント・ペパーズの「ホエン・アイム・シックスティ・フォア」も同じです。特筆すべきはムーグ・シンセサイザー。ポップス界では最も早くシンセを取り入れたビートルズですが、ここでの扱いは実に優雅。やたら効果音的に使わないセンスのよさが光ります。


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オー!ダーリン
なんせポールのヴォーカルに脱帽ですわ。スタジオに一番にやってきて一回だけ歌い、満足行くまで何日も続けたというエピソードは有名ですね。最終版はテイク26!サビを聴くとポールの「狂気」に迫ります。「ほんとはジョンよりポールの方が狂ってる」という人がいましたが、そうかもしれない。

オクトパス・ガーデン
愛すべきリンゴの曲としか言いようがありません。効果音満点のカラフル・ビートルズ。

アイ・ウオント・ユー
情念また情念でひたすらリピートし、シンセサイザーのホワイト・ノイズをビュービュー言わせてしまう。「もうカンニンしてくれ」というところまで行ったら突然カット 。これをやってしまうのがジョンのすごさです。。

ヒア・カムズ・ザ・サン
マイ・スウィート・ロード」につながる、ジョージのアコースティック路線。変拍子やシンセのダビングなど凝りに凝ってるのに、さわやかに聴こえるところはサスガです。

ビコーズ
シンプルなジョンの曲造りもみごとですが、なんと言ってもコーラス。3声のハモリを3回重ね、全部で9パートに。完璧なピッチで夢幻的に包みます。ビートルズは結局「声」さえあれば世界を支配できるんだ!

メドレー
さて、いよいよ問題のメドレーです。核は確かにポールなんですが、ジョンの「毒」もじゅうぶん効いているからこそ、特別なものになりました(ユー・ネヴァー・ギヴ・ミー� ��ユア・マネーからポリシー・パンまで)。

ゴールデン・スランバーのノスタルジーから、キャリー・ザット・ウエイトの突き放したような力強さ、そしてジ・エンドへ。まさに上りつめて行きます。「ソロ回し」はビートルズらしいというか、はっきり言って「ヘタウマ」。「これではツェッペリンらのハード・ロック勢とは戦えないな」と当時思いました。

「結局、君が受け取る愛は君が生み出す愛と同じ」と、すべてを総括する哲学的メッセージから、オーケストラでフィナーレに突入。これぞカタルシス。ポップの世界で、これ以上の完成度をどう求めたらいいのでしょう。ハー・マジェスティも「余裕の」ご愛嬌。

ということで、「アビイ ・ロード」。4人できっちり落とし前つけたんです。

まあ、そもそもビートルズの「最高傑作」を選ぶなんてことに意味ないんですね。それぞれにとってのビートルズなんですから。なんせ全部聴いてみるしかないです。世界を変えたバンドなんですから!


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ところで、ビートルズの「ものすごさ」を伝えるのが、「ビートルズ・レコーディングセッションマーク・ルウィソーン著)」という本です。

これは、1962年のデビューから1970年のレット・イット・ビー発表まで、文字どおりビートルズの全レコーディング・セッションを、日記形式で記録したドキュメンタリーです。

ビートルズは、特に後期に入り、リハーサル・イコール・レコーディングで、ひたすら録音を続けました。一曲を20〜30テイク録るのはザラで、中には60テイク以上録るのもあったようです。そのころは、「共作」はほとんどなく、各々一人で作曲し、完成まで責任を持つというスタイルだったようで、その作曲者が納得するまで、録音は続けられます。

例えば、ポール作曲の「オブラ ディ・オブラダ」。能天気なハッピー・ソングに聴こえますが、ポールはできに満足せず、ひたすらダメ出しを続けます。あまりに同じ演奏を繰り返すので、しまいには、他のメンバーや録音スタッフも皆嫌気さしますが、どこまでも徹底的につきあいます。最後に、リンゴが切れて一時行方不明になったりしますが。

この「納得するまで妥協せず、やり抜く」ということ。ビートルズがただの才人の集まりでなく、生みの苦しみにもだえる「努力の集団」でもあったことに感動します。ぜひ、ご一読をおすすめします。

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さて最後に、「そのほかのおすすめ」ということですが、ここではジョンとポールのソロからひとつづつ、ということにしましょう:

まずポール・マッカトニー。ミック・ジャガーが「作曲しか能のないつまらんヤツ」なんて言ったらしいですが、関係ないです。どう考えても脱帽なんですから。71年のソロ・アルバム「ラム」。不安なソロの旅立ちだけど、どうしても天才が顔を出してしまう。後半の組曲的アレンジは、「アビイ・ロードを作ったのは僕だ」という意地か。これに名曲「アナザーデイ」がボーナス・トラックとなったら、やっぱり持っていたいですよね。


そしてジョン・レノン。音楽的にはずっと「ポールに負けてる」と思ってましたが、その考え方自体まちがってました。80年の遺作「ダブル・ファンタジー」を聴いて、ジョンの底力を再認識したような気がします。非凡な作曲能力は、これまた隠しようがありません。「ウーマン」の限りないやさしさは、何度聴いても胸に来ます。もちろん、ヨーコの作品は全部スキップするのが前提ですけど・・・。



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