春さんのひとりごと
< いつか帰る 愛の故郷 >
このサイゴンで、私や私の友人たちと親しくお付き合いさせて頂いた一人の日本人が、三月末に日本に帰られることになりました。日本での新しい仕事が、また始まるからでした。
その人とは、 SB さんのことです。 SB さんは三年四ヶ月ほど前にベトナムに来られ、 Binh Duong( ビン ユーン ) 省 に千坪の広大な喫茶店・ Gio va Nuoc( ゾー バー ヌック:風と水 ) を開かれましたが、そこでは主に経理を担当されていました。
日本でも経理畑を長い間歩かれて来ましたが、このベトナムでも、ゼロから始めたその喫茶店の経理のシステムを作り上げることに力を入れられました。今回の新しい仕事も、日本、そしてこのベトナムでの経験豊富な経理の知識と、深い識見を日本の会社から請われてのことで、日本での新しい仕事は経理部長の職に就かれるということです。
SB さんは私たちといつも 「ベンタン屋台村」 で話していた時に、ベトナムでの初期の苦労話をいろいろと話されました。それはベトナムで実際に会社の設立に加わり、そこの経理システムを自分で創り上げ、日々の「経理」という地道な作業をこなす人でないと見抜けないような、面白い体験談でした。
ある日、 SB さんがベトナム人の部下を伴い、喫茶店の開設に伴う必要な材料を、一枚のメモ用紙に書き込んで、スーパーに買出しに行きました。そのメモ用紙に書かれていた必要な材料を買い終わり、いざレジで清算しようとすると、ベトナム人の部下が「ちょっと待っていて下さい。」と言って商品棚まで行き、両手に何か持って帰って来ました。
( もう全て必要な物は買い終えたはずなのに・・・ ) と SB さんは怪訝に思い、「それは何だ?」と聞きますと、「チューインガムです。」とその部下は答えました。 SB さんが怒ります。「何で会社の金でガムなんかを買うんだ!自分が欲しいんだったら、自分の金で買え。」と。
するとその部下の人は、「いえ、違います。自分が欲しくて買うのではありません。これはお釣りのために、購入しておくのです。」と答えたのでした。「お釣り・・・?ガムをお釣りの代わりにお客さんに渡すのか。」と、 SB さんが戸惑いながら聞きます。すると「その通りです。」と、その部下が答えたのでした。 SB さんは「・・・!?」と、ポカンとしていたそうです。
そしてしばらく SB さんはこの事例を参考に分析・研究して、 【ベトナムの貨幣制度】 の、日本とのあまりの違いを知ることになります。それは貨幣の最小単位が 200 ドン(約 0.8 円)であり、 100 ドンの貨幣がないことでした。それでも大した支障が無く、スーパーや市場でもお金のやり取りがされているのが不思議でした。双方にとって都合のいいように、切り上げたり、切り下げたりしているようでした。
もしお客が、 19,900 ドンの品物を購入して、 20,000 ドン札で払うとしても、お釣りの 100 ドンはありません。それで実際には無い 100 ドンの代わりに、そのお釣り代わりに渡すのが、一枚のチューインガムなのでした。時には飴一個をもらうこともありました。
渡されたそのガムや飴を、もらう・もらわないはお客の自由です。
私がベトナムに来た当初からこのやり方でしたから、ずっと以前から行なわれて来ていたのでしょうか。でも昔の古い紙幣には、確かに 100 ドン札がありました。そして時に一枚のガムの代わりに、男性のお客の場合には、一本のタバコの場合もありました。 ( もしタバコを吸わないお客だったらどうするんだ・・・ ) と思いましたが。
SB さんはそれらの事情が次第に分かって来るにつれて、あらためて驚きました。 ( 銀行や大きな百貨店や会社などは、一体どうなっているんだろうか・・・? ) と、日本で経理の長い道を歩いて来た経験と自信が、このベトナムで揺らいできました。
確かに、日本では銀行などでその日の出入金が一円でも合わないと、その原因を突き止めるまで、全員が居残り・残業して、ピタッと一円単位に合うまで家に帰れないという話を良く聞きます。もし店長が、 ( たかが一円のためにみんなが残業するのだったら、自分が自腹を切ってみんなを早く帰そう。 ) などと哀れに思い、自分の財布からその一円を出したら、すぐ懲戒免職になると聞いたこともありました。
SB さんはベトナムでのそういう実態を調べていくうちに(こんなやり方だったら、銀行でも、スーパーでも、レシートや伝票と現金残高が合うのが不思議で、むしろ合わないほうが当たり前だろうな・・・。)と想像しました。実際私も銀行で両替した時に、両替票と完全に一致した金額を受け取ることは、まずありません。下の小さい桁は、切り捨てられていつも受け取ります。銀行側が損しないようなやり方になっています。
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